#freeze
そのころ、ウィーンではだれいうとなく、「血まみれの伯爵夫人」という渾名が彼女につけられていた。噂によると、彼女がウィーンへきて泊る宿屋では、毎夜、娘たちの悲鳴が聞え、朝になると街路になると街路に血が流れているというのだった。最初のうち、村の牧師はこんな噂を信じなかった。しかし、[[イロナ・ハルツィ]]という教会の女歌手が、[[エルゼベエト>エルゼベエト・バートリ]]に伴なわれてウィーンへ行き、やがて手脚をばらばらに切断され、屍衣につつまれてチェイテの城にもどってきたのを見ると、牧師の心に疑惑の雲がむらむらと湧き起った。
[[エルゼベエト>エルゼベエト・バートリ]]の弁明によると、[[ハルツィ>イロナ・ハルツィ]]はウィーンの宿で不行跡をはたらいたので、死をもって処罰したというのである。が、彼女が不当な拷問を受けたのはだれの眼にも明らかで、人の好い牧師といえども騙されているわけにはいかなかった。そこで、牧師は埋葬に立ち会うのをやんわりと拒絶した。
こんなふうに、城の女主人の怖ろしい振舞いに、疑念をいだいたひとも一人ならずいたのであるが、彼女の報復を怖れて、裁判がはじまるまで、だれものこのことをあからさまには口にしなかったのである。
#ls2(世界悪女物語/エルゼベエト・バートリ)