さて、ダッシュウッドを中心として、このメドメナム僧院跡にあつまった遊蕩児たちのなかには、社会的な地位のある、錚々たるメンバーがいた。のちに英国政界の暴れん坊として恐れられ、一時はロンドン市長にまでなったジョン・ウィルクス、諷刺詩人で英国国教会の牧師であったチャールズ・チャーチル、同じく詩人のポール・ホワイトヘッド、のちに海相となった名代の道楽者サンドウィッチ伯爵、青年代議士トマス・ポッター、その他金持の貴族や、政治家や、文士、芸術家などである。彼らはそれぞれ僧院の修道士気どりで、院長役がダッシュウッド、執事がホワイトヘッド、副院長がサンドウィッチ伯爵であった。修道士はいずれも白い帽子に白い上衣に白いズボン、院長だけが、兎革で飾られた赤い縁なし帽を、これ見よがしにかぶっていた。
 英国の上流人士をあつめたエロ遊び事件といえば、読者は最近のキーラー嬢事件を思い出すだろう。それが社会問題として、ごうごうたる世論の非難を浴びた点まで、似ているといえば似ている。ただ、時代が時代であっただけに、「地獄の火クラブ」の連中ほ、エロ遊びもさることながら、キリスト教を愚弄し、悪魔を呼び出すための、黒ミサというスリルにみちた遊びにふけることに夢中になっていたのである。


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Last-modified: 2005-05-08 (日) 16:41:19