ちなみにブランヴィリエ夫人とともに十七世紀の「毒薬事件」で主役を演じた、悪名高い女妖術使ラ・ヴォワザンの処刑の模様を、やはり同じセヴィニェ夫人の筆によってお伝えしておこう。夫人はラ・ヴォワザンの堂々たる悪女ぶりに、むしろ感嘆しているかのごとく、次のように書いている。

ノートルダム寺院に連れて行かれても、彼女は決して罪の許しを乞おうとはしませんでした。いよいよグレーヴ広場に着くと、彼女は囚人護送車から下りまいとして力のかぎり抵抗しました。そこで役人に無理やり引っぱり出されました。針金で縛られて、薪の山の上に坐らせられ、藁でまわりを囲まれると、彼女は大声で罵って、五六度も藁を押しのけました。けれども、とうとう火が燃えさかって、彼女のすがたは見えなくなりました。彼女の灰は、いまでも空気中に浮遊しているはずです」

読者は、この徹底した地獄の信者ラ・ヴォワザンと、最後に聖女に一変したブランヴィリエ夫人との、二つの対照的な死に方を比較してごらんになるがよい。悪女の最期にもいろいろあるものだということが、お分かりであろう。

最近、わたしはコリン・ウィルソンとパトリシア・ピットマン共著の『殺人者の辞典』(一九六一年)という本に読みふけっているが、このなかにも、ブランヴィリエ侯爵夫人は、もちろん一項目となって登場している。おそらく、このような種類の本が出るたびに、彼女の名前は永久に繰り返して、人類の記憶によみがえることだろう。あたかもディクスン・カーの空想した「不死の人」のように。


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Last-modified: 2005-02-26 (土) 13:05:09