もとより、犯罪遂行における鞏固な意志や冷静な計画性は、彼女らのよきパートナアというべき男性の側にもあった(ネロや、ロベエル・ダルトワや、時計師ペルの例)。しかし、女性毒殺者に独自な点は、誇張症《ミトマニア》とも称すべき自我衝動の噴出であり(ヘレナ・ジェガードの例)、回想記や匿名の手紙を書く奇妙な情熱である(ブランヴィリエ、ラ・ファルジュ夫人の例)。さらに、彼女らの大部分が盗みから悪の道に踏み込んだという事実は、特筆すべきであろう(ラシェル・デュポン、オルラムンデ伯爵夫人の例)。

「ポケットのなかに毒薬の小箱をしのばせ、変装に憂身をやつして、あたしは公共遊歩場から、街々の通り、淫売屋にいたるまで、あらゆる場所をほっつき歩いたわ。そしてこの不吉なボンボンを、誰彼の見境なく、すべてのひとに配ってやったわ。とくに子供を選ぶほど、あたしの邪悪ぶりはいよいよ募って行ったわ。それから、自分の犯した大罪を確かめてもみたわ。前の日にあたしが残酷な罠にかけてやったひとの家の戸口に、お棺の置かれてあるのを見たりすると、歓喜の焔があたしの血管を駈けめぐったわ…きっと自然があたしの必要のために、こんな言語に絶する法悦を与えてくれたのにちがいない、と思ったものだわ。」


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Last-modified: 2005-02-26 (土) 13:04:11