ガマの毒についてはこれくらいにして、やはり十六世紀当時、最もひろく用いられるようになった「毒物界の王者」ともいうべき砒素について、若干の点を述べてみよう。

砒素ギリシアの昔から、自然に産する鶏冠石とか雄黄《ゆうおう》とかいった硫化物の形で知られており、分離するのが困難とされていたが、やがて次第に純粋な形で抽出されるようになり、しばしば犯罪者たちに利用されることになった。イタリアの医者ジロラモ・メルクリアリスの『毒および毒の疾病について』(ヴェネツィア、一五八四)のよれば―

「二種類の人造による砒素がある。一つは等量の塩と混じった天然の砒素から造られる。すなわち、この混合物をフラスコに入れて、蒸気がフラスコの内壁に結晶をなして凝固するまで熱するのである。これが結晶体砒素と呼ばれるものだ。もう一つは天然の砒素と硫黄との混合物から造られる。この種のものはアラビアの医者によって鶏冠石《レアルガル》と呼ばれている。」

砒素中毒の徴候も、大体において知られていたらしい。たとえばジロラモ・カルダーノは、喉の乾きと冷汗、腸内の痛み、排尿時の疼痛、爪の変色、舌の腫脹など、いくつかの徴候をかなり正確に挙げている。


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Last-modified: 2005-02-26 (土) 13:04:21