同性愛と人肉嗜食に必然的な関係があるかどうか、それはわたしにもよく分らないけれども、少なくとも同性愛は、愛し合う二人のあいだに、サド・マゾヒスティックな対立関係を成立せしめやすいだろう。映画になった『去年の夏、突然に』をはじめとして、テネシー・ウィリアムズの作品は、すべてマゾヒストの主人公が中心になっている。

 フランスの医学者ルネ・アランディ博士の説によると、「あらゆる攻撃性の根源に消化の本能があることは疑いない」そうである。つまり、サディズムの最も原始的な、最も動物的な段階は、まず相手を歯で噛んで、咀嚼《そしやく》して、呑みこんで、胃袋のなかで消化して、ついには相手を無にしてしまうという形で現われるのである。それは動物を見れば分るし、小児を見れば分る。鞭でひっばたくとか、縄で縛るとかいうのは、この「消化の本能」にくらべれば、ずっと高級な、文明的なサディズムの段階であろう。


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Last-modified: 2009-03-12 (木) 12:52:14