カエサル以後、風俗の頽廃がいよいよ進み、歴代の皇帝が毒を政治上の武器として用いるようになると、殺人者、今日のいわゆる殺し屋は、ロオマの街の名物になった。下町のスブラ街にも、ティベリス河口の海港町オスティアにも、キュベレー神殿の内部にも、殺し屋の不吉な黒い影はうろつくようになり、ロオマの七丘の一つにあるエスクィリアエ墓地では、夜な夜な、殺し屋一味の秘密の集会が行われた。

この墓地に、そのころ、カニディアおよびザガナと呼ばれる女妖術師の姉妹があらわれ、墓をあばいて子供の骨を盗み、骨の髄を媚薬の原料として使っているという噂が立った。要するに彼女たちは、プトマイン(屍毒)の利用法を知っていたのである。ホラティウスの『エポディー』第五編に、

醜い顔したカニディアは
額に蛇を飾りつけ
ヒキガエルの血に染んだ卵に
地獄の鳥の羽をば混ぜる
またイオルコスの町に産する毒薬に
不潔な牝犬の骨おば混ぜる…

という詩句が出てくる。それほど、この女妖術使の不吉な名声はロオマ市中に高かったのだ。


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Last-modified: 2005-02-26 (土) 13:04:12