スキャンダルとして騒ぎが大きくなるとともに、会員名簿をはじめとして、会の規約その他をふくんだ記録が残らず破棄されてしまったので、この「地獄の火クラブ」の痴行、狂態ぶりについては、一切が謎につつまれたままの状態であるけれども、当時の新聞や雑誌に、いろんな噂が書き立てられた。それによると、メドメナム修道院には大きなホールがあって、トランプや将棋などの遊び道具が揃えてあり、ホールの壁には、歴代の英国王の肖像が掲げられていた。ところが、ヘンリー八世の肖像には、顔に紙がべったり貼りつけてあったそうである。彼らは、この梅毒に侵された気ちがいの王様を、てんから馬鹿にしていたのである。
 図書室には、ダッシュウッドが営々としてあつめた、好き者が羨望のよだれを垂らしそうな、艶笑文学や春画の一大コレクションがあった。礼拝堂の上の広間には、ローマ風のダマスコ織りのソファーが備えてあって、ここはとくに宴会のために用いられた。
 といっても、会員は一年に二回以上は僧院にあつまらず、あつまっても十五日以上は滞在しなかった。むろん、人目に立つのを防ぐためである。そんなに用心ぶかくしていても、あらぬ噂が流されるのはいたし方なかった。
 修道士には二つの階級があり、高位聖職者と低位聖職者とに分れていたらしい。個室が空いているとき、会員の紹介で連れてこられたフリの客が、低位聖職者なのである。噂によると、高位聖職者に属する会員は、このメドメナムの僧院に泊るとき、ふつうのベッドでは眠らず、大きな揺り籠で寝たという。真偽のほどは分らぬが、なんだか童話のような奇怪な話ではないか。


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Last-modified: Sat, 07 May 2005 00:27:56 JST (4854d)