フランスのカペエ王家にも、奇怪な毒殺の疑いのある死に方をした王が何人かいる。たとえばルイ五世、ルイ十世などである。ルイ八世の妻で賢婦として名高いブランシュ・ド・カスティーユも、恋人のシャンパーニュ伯チボオを誘惑するために王を毒殺したのだと噂された。

こんな疑惑にみちた雰囲気が重苦しく王家をつつんでいたから、宮廷内の食事は極度に慎重だった。かつて東洋の君主が「毒味役」の奴隷を傍らに置いていたように、給仕頭が王や皇太子の食事や飲物を監視し、食事のはじまる前に、その少量を試食してみる習慣になっていた。水晶や貴金属でつくられ、鍵をかけて厳重に保管された食器類一揃いも、信頼のおける給仕によって一つ一つ点検された。塩は精製の仕方がわるいと砒素のような色に見えるので、とくに厳重に扱われた。

給仕頭が敵に買収されることだってあるのだから、なかなか安心してはいられない。俗界の王ばかりでなく、宗教界の王たるロオマ法王でさえも、毒には非常に神経質になっていて、ミサのとき、聖杯と聖体パンを試食するのが役目の聖器物保管係りには、十分警戒の眼を光らせていた。そういうわけで、毒を予防する物質の探求には、地上の権力者たちはつねに関心をいだいていたのである。

#ls2(毒薬の手帖/マンドラゴラの幻想)

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