*冷感症の熱い女

 聖書のなかに出てくる女性で、いろんな芸術作品の主人公とされ、私たちにも親しいイメージとなっているのは、何と言ってもサロメであろう。

 ビアズレーの挿絵のついたオスカー・ワイルドの戯曲は、あまりにも有名であるが、そのほかにも、サロメは昔から絵画に描かれたり、オペラの登場人物になったりしているのである。つまり、これほど芸術家の想像力を掻き立ててきた女性はなかったのである。

 サロメと言えば、まず私たちの思い出すイメージは、半裸体の妖艶なすがたで、一枚一枚着物をぬぎながら、エロティックな踊りを踊る若い女のイメージであろう。言ってみれば、今日のストリップ・ショーの元祖のようなものだ。

 しかし新約聖書のマタイ伝には、べつに、サロメがストリップの踊りを踊った、などと書いてあるわけではない。ストリップは、後世の人間が頭のなかで、勝手に想像しただけの話なのである。

 そもそもサロメの物語とは、いかなるものであろうか。以下に、これを簡単に述べてみよう。

 キリストが生まれる少し前のユダヤの国に、ヘロデという王がいて、自分の兄のピリポから、その妻ヘロデヤを横取りしていた。ヘロデヤには連れ子がいて、これが娘のサロメである。その頃、預言者の[[ヨハネ>ヨハネ(洗礼者)]]という男が、ヘロデ王に、「兄の妻を奪うのはよくない。それは近親相姦の罪である」と警告していたので、ヘロデは[[ヨハネ>ヨハネ(洗礼者)]]を捕えて、牢屋に入れてしまっていた。本当は殺してしまいたかったのだが、ヘロデは預言者を怖れていたのだ。

 ヘロデ王の誕生日のとき、サロメが舞を舞ったので、ヘロデは喜んで「何でもお前のほしいものをやろう」と言った。するとサロメは、母親ヘロデヤにそそのかされて、「[[ヨハネ>ヨハネ(洗礼者)]]の首を盆にのせていただきとうごぎいます」と申し出た。ヘロデは困ったが、約束なので仕方なく、ヨハネの首を斬り、これを盆にのせて、サロメにあたえた。……

 聖書に書いてあることは、これだけである。しかし芸術家は、想像力をたくましくして、このサロメという若い女を、妖しい魅力のある、一種の魔女のような存在に仕立て上げてしまったのである。

#ls2(女のエピソード/サロメ)



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