まさに放浪の天才ともいうべき人物で、同じ町に三、四カ月以上は決して留まらなかったというから、見事なものである。それにしても、あれほどカトリックや保守勢力に憎まれ、多くの敵を周囲にもちながら、彼がヨーロッパ中の貴族や豪商の家を転々と渡り歩き、どこへ行っても厚遇されたという事実は、いかにもふしぎである。むろん、これは、一つには、彼の医学上の技術がいかにすぐれ、いかに彼が世間で必要とされていたかを示すものだろう。と同時に、パラケルススは何らかの秘密結社に属していたのではなかろうか、という疑問も生ずるのだ。
 中世には、相互扶助の精神から発足した同業組合がヨーロッパ各地に名のりをあげた。なかでもフリー・メーソンと呼ばれる建築家や石工の組合は、八世紀以前からすでに存在していて、国王や法王からいろんな特権を賦与されていた。また、これとは別に、薔薇十字団と呼ばれる、一種の宗教上の革命をめざす国際的な秘密結社もあって、異端の魔法道士や錬金術師がひそかにこれに属していた。こうした組織に属している者は、どこへ旅行しても、合言葉やバッジを示すだけで、一宿一飯の恩義にあずかることができたのだ。


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Last-modified: Wed, 19 Mar 2008 22:11:58 JST (3919d)