余談にわたるが、悪魔が人間の体内にもぐりこんだという話は、ヨーロッパの中世にたくさん残っている。有名なローマ法王グレゴリウス一世さえ、ある若い修道女が悪魔を呑みこんでしまったという、奇妙な話を書き残しているくらいである。
 あるとき、女子修道院の菜園で、彼女がレタスの葉を摘んで食べていると、何だかお腹のなかに悪魔が入ってしまったような気がして、大そう心配になった。やがて修道院中が大さわぎになって、魔よけの祈祷師が呼ばれてくる。お腹のなかの悪魔に向って、「早く出てこい」と祈祷師が説諭する。すると悪魔は、「冗談じゃない。だれが好きでこんなところへ入るもんか。おれがせっかくいい気持に菓っばの上で昼寝をしていたら、この娘が摘まんで食ったんじゃないか」と、大いに心外な様子である。結局、悪魔は簡単に自分から出て行って、けりがついたという、まあ、これは笑い話のようなエピソードだ。


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Last-modified: 2008-03-18 (火) 12:23:15