切り裂きジャックには、自分の犯罪をできるだけ目立たせようという、一種の自己顕示欲が強くはたらいていたようである。彼は何度も新聞社や警視庁へ、自信たっぷりな、嘲弄的な手紙を送った。はたして犯人のものかどうか疑わしいような手紙もたくさん混じっていたが、専門家の研究によると、三十四通は真正の手紙だそうである。最初の手紙は、一八八八年九月十二日、セントラル・ニューズ・エージェンシーに届いたもので、赤インクで書かれていた。「おれは淫売どもに怨みがある。腹の虫がおさまるまで斬ってやる。偉大な仕事、至上の仕事だ」といったような文面だった。−ロンドン警視庁スコットランド・ヤード)の犯罪博物館には、今でも、これらの手紙がガラス・ケースにおさめて展示してある。
 連続殺人事件によって、ロンドン市の恥部のような貧民街が明るみに出され、新聞は警察の無能ぶりを筆を揃えて非難し、やがて一種の社会問題にまで発展しそうな勢いであった。反ユダヤ主義者やアナーキストが不穏な動きを見せた。夜は自警団や学生が街をパトロールした。犯人は外国人ではないか、という説があって、多くの容疑者がしらべられたが、いずれも白であった。警察に対する風当りはいよいよ強く、ついに警視総監チャールズ・ウォーレン卿が辞職するという騒ぎになった。


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Last-modified: Thu, 20 Mar 2008 11:47:59 JST (3747d)