「二十世紀で目立つのは、セックス殺人とサディスティックな殺人の増加である」と述べた英国作家コリン・ウィルソンは、さらにつづけて、次のように言っている、「この二十世紀の犯罪との対比を求めるならば、私たちは、それよりずっと前の時代の魔術や、自分を吸血鬼あるいは狼男と思いこんだ男や女の犯罪にまで遡らなければならない。なぜそうなのか理解するのは困難だが、ただ、私たちの時代においては、中世紀の場合と同じように、多くの犯罪は社会に対する反逆の表現なのである」と。
 性犯罪は別として、私たちが興味をもたざるを得ないのは、理由のない殺人、哲学的な殺人、そして美学的な殺人だろう。いずれも何らかの意味で、ウィルソンの言うように、社会に対する最も根源的な反逆かもしれない。このブリトン嬢の考古学殺人事件も、―もしそれが古代の埋葬儀礼を摸する以外に何の目的もない犯罪だったとすれば、―その道具立ての華麗さによって、やはり美学的な殺人というジャンルに組み入れられるべきものだろう とにかく、唯一の目撃者が彼女の飼っていた猫のファジーだけなのだから、赤い粉の謎は解きようがないのである。
 十九世紀フランスの有名な大女優サラ・ベルナールは、自分の邸にいつも棺を置いておき、自分がその中へ入って、死んだ振りをするのを好んだという。まわりの人が悲しんで泣けば、彼女はますます喜ぶのである。自分が死ぬことを空想して快感をおぼえる傾向を、心理学でタナトフィリアというが、何だか私には、無責任なようだが、若き女流考古学者ジェーン・ブリトン嬢にも、こんな傾向があったのではないか、と思われて仕方がないのである。
 私の女友達も、埋葬儀礼殺人事件の新聞記事を読むや、さっそく私に電話をかけてきて、「ねえ、あたしもどうせ死ぬものなら、あんな風にして死にたいわ!」と溜息をもらしたことを、最後に忘れずにつけ加えておこう。


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Last-modified: Mon, 20 Sep 2010 23:23:18 JST (3005d)