チェイテの城が捜索されたのは、一六一〇年十二月のことである。雪と氷が山上の城を鎖ざし、外は白一色の沈黙の世界であった。

剣をもった役人が、松明をかざして城の地下室におりて行くと、異様な臭気が鼻をついた。拷問部屋の壁には、血の飛沫が生ま生ましく散っていた。火の消えた炉のそばに、処刑の道具がころがっていた。最後に、上階に通じる石の階段のそばに、殺された裸の娘が倒れていた。乳房はえぐられ、肉は切りきざまれ、髪の毛は束になって抜け、怖ろしい断末魔の表情をまだ顔に泛かべていた。

さらに奥へ進むと、他の屍体が見つかった。虫の息で生きている者もあった。生き残りの証言によると、彼女らは食を断たれた末に、殺された仲間の肉を食うことを強要されていたという。

裁判は一六一一年一月、ハンガリアビツシェにおいて行われた。しかし、エルゼベエトはそこに出廷しなかった。親族からの嘆願書がついに皇帝の気持ちを動かし、彼女は死刑になることをすら免れた。共犯者のドルコイロナらは、いずれも火あぶりになった。

伯爵夫人は終身禁固を宣告された。チェイテの城に死ぬまで閉じこめられるのである。

判決が下ると、石工が城にやってきた。内部に夫人を閉じこめたまま、彼らは石や漆喰でもって、城の窓という窓を塗りつぶしはじめた。夫人の視界から、だんだんと光の射しこむ部分が消えてゆく。彼女は生きながら、巨大な真暗な墓のなかに葬られるわけである。光を通すどんな小さな隙間も、残らず塞がれた。そうして最後に、食物と水を彼女の部屋に送り入れるための、小さな孔が壁に穿たれた。

城の四隅の高いところには、四本の絞首台が建てられた。ここに死刑となるべき罪人が生きているということを、告示するためである。

一切の光を奪われた絶対の孤独。それが彼女の甘受した最後の運命だった。井戸の底のような真暗な部屋のなかで、聞えるものはただ風の音のみである。彼女の大きな黒い瞳は、すでに自分の蝋のような白い手をすら眺めることができない。ビロオドと毛皮をまとって、一日中、彼女はただ獣のように生きているしかない。

こうして一年すぎ、二年すぎ・・・・・・三年目の夏に、エルゼベエト・バートリは死んだ。享年五十四歳。死の少し前に、明晰な意識で遺言を書いた。しかし彼女の血にまみれた魂は、あらゆる出口を塞がれた永遠の牢獄から、どこの世界に飛び立つことができたろうか?


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Last-modified: Mon, 17 Mar 2008 00:05:16 JST (3897d)