一日会わなければ病気になり、三日会わなければ死ぬという「愛の飲み物」を飲んだ

 中世ヨーロッパにひろく流布された、トリスタンとイゾルデの物語は、宿命的な恋の悲劇の象徴として、よく引き合いに出されるから、ご存知の方も多いだろう。ワグナーの有名なオペラもあるし、コクトーの映画(「悲恋」という題になっている)もある。

 トリスタンという青年は、不幸な身の上で、生まれ落ちると同時に両親をなくし、叔父のコンウォール王マルクのもとに引き取られて成長した。しかし立派な青年になって、武芸にもすぐれた腕前を見せる一人前の騎士となった。

 あるとき、叔父の命令でアイルランドにおもむき、叔父の妻となるべき金髪の王女イゾルデを迎えて帰る途中、船のなかで、あまりの暑さに咽喉が渇いたので、侍女に頼んで飲み物をつくってもらった。そのとき、うっかり者の侍女が間違えて、マルクとイゾルデの新夫婦が飲むはずだった媚薬入りの酒を、トリスタンとイゾルデに飲ませてしまったのである。

 この酒は、「愛の飲み物」と呼ばれる魔法の酒で、これを飲んだ者は、一日会わなければ病気になり、三日会わなければ死ぬという、不思議な効能のある酒だった。(ただし、薬の効能は三年で切れる)だから、トリスタンとイゾルデは、たちまち燃えるような恋におちいり、道ならぬ関係を結んでしまう。

 二人はマルク王の領地へ帰り、イゾルデは王の妻となったが、それでも二人は王の日をぬすんで、ひそかに会いつづけていた。やがて、王の腹心の家来によって、二人の密通の現場が押さえられてしまう。トリスタンは追放され、ノルマンディーにのがれ、その地で、やはりイゾルデという名前の女性(「金髪のイゾルデ」と区別して、「白い手のイゾルデ」と呼ばれる)と結婚するが、最初の恋人のことがどうしても忘れられず、妻を純潔のままにしておく。

 そのうち、トリスタンは戦いで重傷を負い、病床に臥す身となり、もう死が間近いというとき、もう一度「金髪のイゾルデ」に会いたいから、船で彼女を呼んできてくれ、と頼む。王妃イゾルデは迎えにやられる。そのとき、イゾルデが迎えの者と一緒にやってくる時は白い帆を、やってこない時は黒い帆をあげて帰るという約束になつていたのに、嫉妬に狂った妻の「白い手のイゾルデ」が、白い帆を見ながら、嘘をついて、トリスタンに黒い帆だと告げてしまう。トリスタンは絶望して死ぬ。

 まもなく駈けつけたイゾルデも、たったいま死んだばかりの愛人の死骸にとりすがったまま、悲しみのあまり息たえる。−以上が、名高いトリスタンとイゾルデ悲恋物語の骨子である。


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Last-modified: Wed, 25 Mar 2009 23:05:54 JST (3318d)