女と毒薬との関係の極致 みずからの快楽のために次々と殺人を重ねた稀代の女毒殺魔

 世に「悪女」といわれる女も多いが、十七世紀のフランスに出現した稀代の女毒殺魔、ド・ブランヴィリエ侯爵夫人くらい、徹底した悪女もめずらしいのではあるまいか。

 フランスの薬物学の権威ルネ・ファーブル教授の研究調査によると、毒殺犯の七十パーセントは女性だという。クレオパトラの昔以来、女と毒粟とは切っても切れない関係にあったらしい。それにしても、政治的陰謀や遺産相続のためならまだしも、純粋に自分ひとりの快楽のために、父親や夫や弟や、さらに何の関係もない自分の家の小間使まで、次々に犠牲にしようとしたのだから、このド・ブランヴィリエ侯爵夫人という女は、まことに怖るべき女性ではある。

 夫人は幼名をマリー・マルグリット・ドーブレといい、領分の高いパリの司法官の娘として生まれた。二十一歳のとき、ド・ブランヴィリエ侯爵と結婚したが、この夫が邸にゴーダン・ド・サント・クロワという騎兵隊の士官を連れてきたときから、彼女の生活が乱れはじめるのである。

 生まれつき、色情狂の傾向のあったマリーは、この遊び人の騎兵士官にぞっこん惚れてしまい、二人は恋人のように平然と情事を重ねる。夫のほうも、自分の情事に急がしいので、妻の御乱行などは気にもとめない。ただ、彼女の父親がひどく怒って、司法官としての自分の権限を利用して、不届きな娘の恋人ゴーダンバスティーユ牢獄にぶちこんでしまった。

 さて、このゴーダンは牢獄の中で、ある書物学の大家と知り合い、牢獄を出てきたときには、すでに一流の毒薬使いになっていた。そしてマリーと二人で、怨み重なる父親殺し、遺産横領などといった、おそるべき計画を着々と練りはじめるのである。


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Last-modified: Wed, 25 Mar 2009 22:50:18 JST (3318d)