それによると、サロメは、美男の預言者ヨハネに恋心をいだき、どうしても男の唇に接吻したくてたまらず、エロティックな踊りでヘロデ王の気持を乱して、とうとう、ヨハネの斬り落された首を手に入れてしまった、というのである。いわば、サロメはおそろしく我がままな女だったのだ。甘やかされて育ったので、自分のほしいものは何でも手に入る、という幻想のなかで生きていたのだ。

 スペインオルテガという哲学者が「サロメという女は、現在ならば、さしずめ銀行家か、石油王の令嬢といったところだろう」と書いているのも、同じ意味からだったと思われる。

 こういう我がままな女は、同時にまた、飽きっぽい性質でもあるのである。たぶん、サロメの熱い空想は、彼女の望みの愛の対象(つまり斬り落されたヨハネの首)を手に入れるとともに、たちまち冷めてしまうにちがいない。空想と現実との違いに、彼女はただちに気づかされる。それで、サロメはふたたび肉食獣のように、新たな獲物に向かって飛びかかって行かねばならなくなる。

 サロメは永遠の不満足の化身、つまり、冷感症なのである。

 心理学者のシュテーケルが正しく指摘しているように、ニュンフォマニア(女性の色情狂)と性的冷感症とは、楯の両面にすぎないのである。一見すると、サロメの奔放な行動は、熱い肉体の燃焼を思わせるが、熱くなっているのは、あくまで彼女の頭の中の空想だけなのである。

 しかしサロメのような冷感症の女は、男にとって、決して魅力がないわけではないのだから、困ったことではある。


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Last-modified: Wed, 25 Mar 2009 23:03:52 JST (3316d)