サッフォーは若いころ、一度結婚し、娘を生んでいるが、中年になると、レスボス島ミュティレネという町に、一種の私塾をひらいた。自宅に若い娘を大ぜい集めて、歌や舞踊や音楽や詩を教えるのだ。むろんサッフォーが教師である。こうして、大ぜいの乙女たちに囲まれて、ひねもす竪琴をかき鳴らしたり、詩をつくったりしていたころの彼女は、さだめし辛福だったにちがいない。

 いや、しかし、幸福な時ばかりではなかったようだ。サッフォーが愛した乙女たちの名前は、その詩のなかにたくさん残っているが、ともすると乙女たちは、島の若い青年たちに恋をして、女教師の熱烈な胸の想いには応えてくれなかったからである。考えてみればそれも道理で、レスボス島だからといって、レスビアンばかりいるわけではない。だからサッフォーは、しよっちゅう失恋していなければならなかった。

 それほどレスビアン・ラヴ一筋に生きてきた彼女が、どうした風の吹きまわしか、生涯の最後に、男に恋をしてしまったのだから不思議である。

相手はレスボス島の若い船乗り、美青年のパオンである。しかしパオンは、同性愛の女流詩人なんか頭から馬鹿にして、さっさとレスボス島を船出してしまった。サッフォーは、シチリア島まで恋人を追ってゆくつもりだった。けれども航海の途中、イオニア海レウカス島まで来てみると、さすがに自分の愚かしさに気がついた。彼女も、今では五十五歳の老女である。相手のパオンは二十歳そこそこの若者だ。どう考えてみても、自分の恋は不幸な結果に終わるにきまっている。

 サッフォーは悩み、絶望し、レウカス島アポロンの神殿のある白い岩の断崖から、イオニア海の紺碧の海に身をおどらせた。こうして彼女は悲劇的な最期をとげた。

 現代のレスビアン・ラヴの勇気ある実践者たちも、このサッフォーのように不幸な目にあわないように、くれぐれも御用心!


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Last-modified: Wed, 25 Mar 2009 23:03:04 JST (3376d)