アベラールは、燃えるような恋心に取り乱した彼女を落着かせ、精神的な愛の領域にみちびいて行こうとするが、彼女はなかなか納得しない。それはそうだろう。彼女はアベラールと違って、五体健全だし、過去に楽しい恋の思い出をもっているのだ。男の方が、たじたじとなっている。

「わたくしが気に入られたいと思うのは、あなたにであって、神にではありません。わたくしを尼僧にしたのは、あなたの御命令であって、神への愛ではないのでございます」

 エロイーズはこう言って、神への愛を説くしか能のない性的不具者のアベラールに対して、痛烈に反駁している。男のほうは、彼女をもてあましているような感じである。

 いずれにしても、エロイーズは、この男とは名ばかりの恋人に宛てて、二十年間、火のような恋文を書きつづけたのだから、大したものだと言わねばならぬ。


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Last-modified: Wed, 25 Mar 2009 12:23:48 JST (3497d)