フィロストラトスの伝記に出てくる第二のエピソードは、この神秘な能力をもった魔術師が、悪魔に苦しめられている病人を回癒せしめた物語である。
 ある若い男が、悪魔に取り憑かれて苦しんでいたので、人々はアポロニオスを連れてきて、この病人の体内に棲みついた悪魔を追い出してほしい、と頼みこんだ。アポロニオスは「よろしい、これから催眠療法を行います」と言って、たちまち若い男を眠らせると、その顔をじっと見つめ出したのである。魔術師にじっと見つめられると、やがて体内の悪魔は居たたまれなくなって、弱々しげな声で、「申しわけございません、アポロニオスさま」と哀訴した、「これから出て行きますから、どうかもう御勘弁を……」するとアポロニオスは、まるで先生がいたずらな生徒を叱るような調子で、「本当か。本当ならば、その証拠を見せてみろ」と言った。
 悪魔は答えて、「それでは出て行った証拠として、向うに見える廻廊の下にある石像の一つを、ひっくり返してごらんに入れましょう」と言った。そこで、みんなが見ていると、やがて石像はぐらぐら揺れ出し、最後に大きな地響きを立てて、どうと倒れたのである。と同時に、それまで眠っていた病人がふっと眼をさまし、眼をこすり、周囲の人々をふしぎそうに眺め出した。何にも知らないうちに、彼の体内から悪魔が出て行ったのである。病人はふたたび健康になった。


:人物
:行為者
#ls2(妖人奇人館/哲学者と魔女)

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